漫画『ゴールデンカムイ』第17巻は、樺太にて日本とロシアの国境を越えようとしたアシㇼパやキロランケ達がロシア国境警備隊に襲撃を受けたうえ、キロランケの過去も暴かれます。
一方アシㇼパ達を探しに北へ進んでいた杉元らは、地元ロシア人との交流を機に進む方向が変わろうとしていました…。
漫画『ゴールデンカムイ』17巻には第161話~第170話までが収録されています。
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目次
第161話 カムイ レンカイネ
キロランケ達は日本とロシアの国境を越えようとしますが、トナカイ橇に乗り同行したウイルタ民族の親子の父親がロシア国境警備隊に打たれてしまいます。キロランケは、白石に橇を進ませるように言い、白石はトナカイが次々撃たれる最中で走り抜けます。
一方キロランケは、撃たれたウイルタ民族親子の父親を助けるべく単身、ロシア国境警備隊が狙う場へ向かいます。尾形の援護もあり、キロランケや白石ら一同は難を逃れます。ウイルタ親子の父親は重傷を負ったものの、命に別状はありませんでした。ただ、キロランケは“国境付近で狙われた事には必ず理由がある”と指摘し、尾形も銃を取りロシア国境警備隊へ“直接聞き出そう”とします…。
しっかり綿密に計画・作戦を立てたつもりが、思わぬ展開・出来事が起こるのは日常でも十分あり得ます。ただ、キロランケや白石達の様に命懸けで行動を行ったら、大きな困難も乗り切れるのかもしれませんね。
第162話 狙撃手の条件
ロシア国境警備隊もキロランケ達を追い、警備隊のイリヤを撃った尾形に対し、警備隊狙撃手ヴァシリが強い復讐心を抱いていました。しかし彼にとって、キロランケらを仕留める事は容易ではありませんでした。
警備隊の一人が森林でタライの様なものを見つけ拾い上げると、突然爆発を起こしました。タライ状の箱は、金属の棒が抜け点火する仕組みという手投げ弾と似た仕組みでした。
爆発を遠くから見ていたヴァシリは、“「皇帝殺し」が仕掛けた爆弾に違いない”とキロランケの事を思っていました。一方キロランケ・白石・アシㇼパの3人は尾形に銃で撃たれ重傷を負ったイリヤの前まで来ていました。
イリヤはキロランケの顔を見るなり、一枚の紙を取り出し、そこにはキロランケの顔がしっかりと写っていました。更にイリヤは、“(ロシア語で)ユルバルス、ロシアはお前を忘れていない”と言い、キロランケの過去の事実が明らかとなります…。
どんなに秘密を隠していたとしても、何故かどこかのタイミングでバレてしまう事は結構多いなと思いました。そんな時は、開き直って真実を語るしかないかもしれません…?
第163話 指名手配書
キロランケやアシㇼパらの前でイリヤが取り出した紙は、ロシア語で書かれたキロランケの“指名手配書”で、アシㇼパや白石は戸惑いを隠せませんでした。ロシア国境警備隊はキロランケを狙っていた事が分かり、彼は自身の経緯をアシㇼパらに話し始めます。
キロランケは15歳の時にサンクトペテルブルクにて反体制過激組織と関わる様になり、街で(爆薬を使った)ロシア皇帝暗殺を実行、その際にアシㇼパの父・ウイルクも同行していました(彼も爆薬で負傷)。
その頃、ロシア警備隊の狙撃手・ヴァシリは森の中で尾形との勝負が行われていましたが、遠くで銃を構え全く微動だにしない尾形により、緊張感が続いていました。
しかしヴァシリがふと(木の上から)下を見ると、ウイルタ民族の天葬棺まで続く跡が見えました。“(尾形と思っていた猟銃と木の上に布が被さっていた所が)どうりで動かないわけだ、あれは遺体を使った案山子か!”と、ヴァシリは天葬棺を目掛け銃を発砲しますが…。
木の上で全く微動だにしない尾形もそうですが、中々結論が見えない状態は緊張と焦りが生じますね。狙撃手ヴァシリも冷静を装いつつ、“早く(尾形との)勝負に決着をつけたい”という思いがあったのではないでしょうか。
第164話 悪兆
ヴァシリとの勝負が付いた尾形はキロランケやアシㇼパのもとへ戻って来るも、何やら顔色が悪く高熱を出していた様です。ふらつく尾形を連れてキロランケ達は、ウイルタ民族の天幕へ戻り、尾形にスワシ(『若い灌木』という意味)の煮汁を飲ませ療養をさせます。
そんな時、白石が皆に用を足すと言いつつアシㇼパに一緒に外へ来る様に手招きをします。外へ出たアシㇼパに対し、白石は“一緒に逃げよう、今しかねえ”と言ってきます。
のっぺら坊は金塊の暗号を囚人の刺青として彫り、アシㇼパしか解けない暗号をキロランケが思い出させようとしている事を白石は気付いていました。それ故に、共にロシアで行動するのは危険だと警告して来たのです。
そんな白石の“助言”に対して、アシㇼパは“私は残る。私はもっと知りたい、アチャ(父)がどういう人か、どうしてのっぺら坊になったのか…”と答えます…。
アシㇼパの“私は残る”という言葉には、どんな試練が来ようとも父親の真実を知ろうという強い熱意が伝わります。逆に、白石は楽な方に進もうと思いきや、やっぱりキロランケらと同行すると心変わりが激しいところが、案外現代人と似ているのかもしれません。
第165話 旗手
ウイルタ民族の天幕での療養の甲斐もあり、高熱も下がり回復の兆しが見えて来た尾形でした。アシㇼパ達がウイルタ民族から『セワ』という病治療効果があると言われるお守りを貰い、会話が弾んでいた横で尾形は第七師団として激しい戦線にいた時の夢を見ます。
第七師団はロシア軍と血みどろの白兵戦を繰り広げていました。尾形はある時、一人のロシア兵を捕虜として捕まえて来ます。戦線で旗手として先頭に立っていた花沢勇作は、捕虜を見て戸惑います。
そんな勇作に対し、尾形は“誰か一人でもロシア兵を殺しましたか?他の旗手は刀を抜いて戦っているのに、何故そうしないのですか?旗手である事を言い訳に手を汚したくないのですか?”と問い掛けます。勇作は弱気ながらそれを否定します。
すると、尾形は“この男(ロシア人捕虜)を殺して下さい、勇作殿が殺すのを見てみたい”と、取り出した刀を勇作に渡してきます。勇作は強く拒み、“出来ません、父上からの言いつけで『お前だけは殺すな』と。何故なら誰もが人を殺す事で罪悪感が生じるからだと!”と答えます。
尾形は“殺した相手に対する罪悪感ですか?そんなものありませんよ。”と冷たく言い放ちます。それでも勇作は、尾形を抱きしめ“兄様は決してそんな人じゃない、きっと分かる日が来ます。”と涙ながらに訴えます。しかしそんな勇作の熱意も虚しく、引き裂かれるのでした…。
兵士の中でも勇作の様に、平和を願う若者が多かったのかもしれません。しかし上からの命令による戦いで散っていく姿が、現在も世界で続いているのが残念ですね。
第166話 頼み
尾形の体調も全開し、ウイルタ民族に別れを告げたアシㇼパやキロランケ達でした。その際、キロランケは白石にも“ここで別れよう、俺はロシアではお尋ね者で一緒に居れば危険が伴うはずだ。俺から『逃げる』必要なんかねえんだぜ”と勧めます。
アシㇼパ・キロランケ・尾形の3人を見送った白石は、“北海道に戻り鶴見中尉にすり寄るか…”と呟きつつも、結局アシㇼパ達のもとまで駆け出して“『白石由竹、世界を股にかける』なんつって”と言いつつ彼等と同行する事となったのでした。
杉元達はというと、樺太最南端の豊原より北、国境から南の方に位置する場所にいました。犬橇で移動中に吹雪に見舞われたうえ、前の視界を失う程の猛威により、杉元・谷垣・チカパシは別の橇に乗った月島達とはぐれてしまいます…。
上記でも述べた様に、白石はとても気分屋なうえ、意外と寂しがり屋な面があり、そんなキャラクターが憎めないのかもしれません。また(話題は変わりますが)、どんなに強靭な肉体でも自然の力には成す術がない事も伝わりました。
第167話 白くらみ
杉元達とはぐれた月島達は近くの小屋へ避難後、再び鯉登と月島で杉元達を探しに行きます。突然吹雪の中で目の前が光り、光の主は一人の中年のロシア人男性で、“(ロシア語で)どうしたんだ?”と二人に聞いて来ます。
(ロシア語が話せる)月島は、そのロシア人男性に“仲間が近くで迷っている”と必死に伝えると、男性は“ついて来い”と鯉登と月島をある所へ連れていきます。
一方荒れ狂う猛吹雪の中、杉元達は堀った穴へ入り、寒さに強い橇の犬達を毛布替わりとし、どうにか吹雪を凌ぎます。そして谷垣は自身が持っていた餅を杉元とチカパシに分け体温を維持させようとしていました。
谷垣から“眠るなよ杉元、死ぬぞ!”と言われるなか、うつろな意識の中、戦場で散っていった幼馴染みの寅次の事を思っていました。そんな時、遠くの方で光っているのが見え、“光だ”“瞬いてる、絶対に月の光じゃない”と杉元と谷垣は思わず叫びます…。
杉元や谷垣達のの行動を通して、“極寒の中での対処の仕方”が読者に伝えられている様な気がします。更に、谷垣が杉元に言った“寝たら死ぬぞ”という言葉も、実に現実的に聞こえました。
第168話 燈台守の老夫婦
吹雪の中で杉元達が見つけたのは燈台の灯りで、鯉登と月島が出会った中年ロシア人男性の協力で照らしてもらったのでした。そのおかげで杉元達は灯りがある建物まで辿り着く事ができました(燈台は日露戦争以降、全く使われていなかったとの事です)。
月島はこの建物に住むロシア人老夫婦(夫は雪道で出会った男性)に礼を言います。夜が明け、杉元達は(吹雪の中で焚火様に燃やしてしまった為に)建物スペースを借りて犬橇を作り直します。
一同が老夫婦からロシア料理のおもてなしを受け団欒の時を過ごしていた時、ふと杉元が“ご家族はいないの?”と聞いたうえ、月島が壁に飾ってあった一人の女性の写真を指し“娘か?”と言った時、夫婦の顔が突如暗い顔つきになります。
日露戦争前より、この建物の『燈台守』としてロシア人夫婦と娘の親子3人で暮らしていましたが、ある日ロシア軍脱走兵がやって来て娘を連れ去ってしまったそうです。
探し回っても娘は見つからず、軍や政府も対応してくれなかったそうです。やがてもっと北の位置に新しい燈台が建てられ、この燈台は不要となりますが、夫婦は娘の帰りをずっとこの燈台で待ち続けているのだそうです。
娘を思い涙するロシア人夫婦の姿を見て、杉元は“娘さんの写真を借りていってもいいか?”と言いい、更に夫婦と別れる際に“本来の目的が最優先だが、何もせずにサヨナラはできねえよ”と(燈台により命を救われた事もあり)ある行動を実行しようとしていました…。
旅先で出会った人々の悲しみを解決しようとする展開は、何だか時代劇『水〇黄〇』に似ていますね。この様子から、杉元は義理と人情に厚い事が分かります。
第169話 メコオヤシ
杉元は自分達の命を救ってくれた恩返しとして、行方不明となったロシア人夫婦の娘を見つけ出そうと試み、夫婦にも自分とアシㇼパの写真を渡し、“(アシㇼパが立ち寄ったら)『杉元佐一が生きてる』って伝えてくれ”と言い残しその場を立ち去ります。
杉元は滞在している樺太アイヌの集落で、アシㇼパ及び夫婦の娘について聞き出すも全く手掛かりは掴めません。その合間、エノノカはこの近くで『メコオヤシ』という猫の化け物が出没し遭遇した者の荷物を全て奪われた(食べられた)と話し、チカパシを驚かせます。
月島や鯉登は、それはオオヤマネコだと言い、山猫から尾形の事を連想させます。“山猫”は『芸者』を指す隠語で、尾形を好まない第七師団兵士達も陰でそう言い、鯉登も“(尾形が)大嫌いだ”と言ったうえで、“教訓があるとしたら『泥棒猫は撃ち殺せ』だ”と話します。
一方の尾形・キロランケ・アシㇼパ、山の道中でオオヤマネコの大きな足跡を見つけていました。キロランケは昔ウイルクと一度オオヤマネコ獲って毛皮がかなり高く売れた事を話しました。更にキロランケが“昔のウイルクをよく知っている人がいる、会いたくないか?”と聞きます。
自分の父・ウイルクの話で心が揺れたアシㇼパは “(よく知る人物が)どこにいるんだ?”と聞き返します。それに対し、“(その人物はアレクサンドロフスクサハリンスキー(通称『亜港』)にある『亜港監獄』に収監されている”と答えたキロランケでした…。
嫌いな人に対し、動物やキャラクターに例える事は昔からあった事が伺えます。そしてこの回の終盤で、尾形がオオヤマネコに遭遇した故にキリの良い終わり方だったのではないでしょうか?
第170話 亜港監獄の女囚
白石は“いつまで亜港み滞在するのか?”と聞くと、キロランケは“もうしばらくさ”と返答、更に亜港監獄の女囚・ソフィアとの面会の目的を聞くと、無言で何も答えませんでした。アシㇼパの“アチャ(父)の事をよく知る人の事教えてくれ”という言葉に漸く重い口を開きます。
『亜港』と呼ばれるこの街はロシア領の北樺太の中心的な都市であると同時に、大陸で罪を犯した囚人達が“流刑地”として流れつく樺太で最初に上陸する場所が『亜港』でした。そこにある『アレクサンドロフススカヤ監獄』には約1700名もの懲役囚が収監されています。
男の囚人達は頭髪を半分剃り落とされるうえ、建築・炭鉱での苦役を強いられます。脱走を図ろうものなら、連れ戻された挙句に看守から鞭打ちをくらわされ、“常習犯”に対しては一輪のリヤカーに鎖で繋がれた状態で寝食を過ごさなければなりませんでした。
それに対し女囚には『苦役』が無く、大半の者が島民の召使い、或いは花嫁候補となって行きます。女性が不足していた樺太の男達にとって、彼女達との“お見合い”は重要な場であり、互いの条件が合えば結婚を条件に監獄から出られるのです(但し樺太からは出られない)。
その中でも女囚ソフィアは教養もありかなりの美貌の持ち主で、キロランケやウイルクにとって“憧れの的”だったそうです。アシㇼパも“会ってみたい”と言った、ソフィアは昔の可憐な面影はなく、体格も顔つきもすっかり変わり果てた姿となっていました。
監獄の一室でソフィアの話し相手となっていたのは、杉元達が出会った老夫婦の娘・スヴェトラーナでした。そこへ看守から“手紙だ”と部屋のドアの下から入れられます。ソフィアは封を開けた“心当たりがない叔母からの手紙”から微かに牛乳の香りを嗅ぎ取ります。
その手紙をロウソクの火に炙ると、便箋の上部にロシア語の文字が浮かび上がります。それを見たソフィアは、“ユルバルス(キロランケの事)、戻って来たね、坊や”と不敵な笑みを浮かべたのでした…。
ソフィアがあまりにも変わりすぎて、キロランケと彼女との対面は、何だか同窓会で数十年ぶりに対面する様な緊張感が伝わって来ます。その反面、久々に会った時のキロランケのリアクションも見ものかもしれません。
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